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アキコ・グレース 「グレースフル・ヴィジョン」のリリースにあたって
芸術は美の探求だと思うのです

2年ぶりのアルバム・リリースですが、昨年は配信限定の新曲を発表していましたね。

−昨年7月から”ピアノ・モード”というテーマでソロ楽曲を毎月1曲というペースで発表して来ました。ピアノと自分との距離が短くなったことを強く感じましたね。配信は書いたものをすぐにお届けできるので非常に新鮮だったし、オリジナルだったのですが月々の季節感をあらわすことができたので楽しかったですね。また、音日記ということでその曲に対する思い入れを伝えるなど新しい試みでした。機会があればまたやりたいと思っています。

本作はこれまでのアルバムとだいぶ違う感じがします。
テクニックを駆使してエキサイティングなプレイを中心とするのではなく、内省的というか静的というか一層深みを増した演奏のように感じますが。

−通算10枚目の記念すべきアルバムですね。ベースのラリー・グレナディアとは4枚目になります。 再びニューヨーク録音で渾身の作品です。
アルバムの全体のテーマは「音の美」、音楽の中のビューティです。
芸術って何だろうと考えたときに芸術は美の探求だと思うのです。美というのは人それぞれの思いがあってそれが音になって行くものでアーティストの内面から出てくるものだと思います。ミュージシャンである私の場合はメロディーやタイム感などに色濃く出るものだと思います。

 

アルバムはオリジナルをメインにスタンダードやクラシックをはさみながらの構成になっていますね。
1曲目の”エヴァネッセンス・オブ・サクラ”は静かで内省的な曲。2曲目の”ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン”は素晴しいバラッド。3曲目の”フライ・オン・セヴン”は7拍子でグルーヴ。4曲目は”ドキシー ”ですがフリー・ジャズのような自由な演奏とオリジナルをメインにスタンダードやクラシックをはさみながらの構成で場面が変わって行く様な感じがします。

−そうですね。曲順にもこだわったりアルバム全体のストーリーを考え、どのような空気感にしようかということを色々考えました。
選曲については、オリジナルに対する思い入れは強いですね。私は、スタンダードであってもオリジナルのよう扱っています。どのような見方でどのような立ち位置で音を作っていくかの提示が重要です。これはとても難しいことですがそのマジックの種を明かすと、曲をどれだけ自由にするか、スタンダードであればあるほど自由にする必要があります。オリジナルは頭の中で新しく組み上げて行きますが、スタンダードは原曲があるわけですから再現でなく演奏者が色の混ぜ方や音への思い、密度、リズムの分解などのスタンスを決めなければなりません。ですから、原曲に対しどれだけ自由になれるかというのがオリジナリティーを出す秘密ですね。分解して組み直すことが重要です。

曲順についてですが、一番最後にデビュー以来私の重要なレパートリーとなっている”デランシー・ストリート・ブルース ‘08 ”をもってきて、その前にインターミッションを置きましたが、そこまでの10曲は組曲という考えで構成しました。ですから是非通して聞いていただきたいですね。

レコーディングではライブと同じような感じで行いました。エンジニアにはテープを止めないでと指示しメンバーは自由に演奏するようにしました。自由にするとお互いの音をよく聞いて密になるんですね。そして、方向指示をピアノが行うというやりかたでした。”ドキシー”などはそのよさが出ている曲の一つだと思います。
いままでもアレンジで自分のスタンスを提示してきましたが今回はそのビジョンがはっきり出たと思います。

作曲はどのように行うのですか。インスピレーションはいつ湧くのですか。

−メロディーが出てくるのは外にいるときや部屋の中、お風呂の中など色々です。外の場合はメロディーを覚えていて家についてから楽譜に書きます。
「シルバームーン」は月の光からメロディーが浮かびました。そのメロディーを大事にしてハーモニーをつけました。
”フライ・オン・セヴン ”の場合は車の中でした。車窓から見える飛ぶような景色を見てビート感を感じベース・ラインが浮かびました。脈をうってきましたね。
もちろん、ピアノの前に座って即興でメロディーが出てくるということもあります。

 

クラシックのジャズ化は最近多いですがポップスのジャズ化と比べて違いはありますか。

−私の場合は、曲のどこかのエレメントに惹かれるものがあればクラシックであろうとポップスであろうこだわりません。どんな曲でも分解するので同じです。なじみの無い曲では何度も繰り返し聞いた後その曲を頭の中から追い出します。そして、また思い出してからアレンジを行うという方法をとっています。要は、共感するものがあるかどうかが重要でクラシック、ポップスはあまり関係ありません。モーツアルトの”ラクリモーサ”はメロディーが好きだったので選びました。

 

メンバーはこれまで何回か共演したラリー・グレナディア(b)にドラムスはアリ・ホニックという新人を起用しています。彼らのプレイはどうですか。

−ラリー・グレナディアは音自体がすばらしいです。太い音、ビート感がすばらしいでね。また、拍の感じ方がきめ細かいです。早い4ビートでも拍と拍との間を分解する能力、それに音を出す技術力がすごいですね。感じたところを的確に音に出せるのです。それと選ぶ音が好きです。自分のものを持っているといえるでしょうね。
彼は「自分は音で指紋を残して行くことが大事なことだ」と言っています。自分の世界観を持っているのはすばらしいですね。

ドラムスのアリ・ホニックはCDでの演奏を聞いたことがあって一度生を聞いてみたいと思っていました。そこで、レコーディングとは別にニューヨークに行ったときにライブハウスで彼のトリオを聞いてすばらしいと思いました。なんと私と同世代なんです。

 

レコーディングは順調でしたか。

はい、順調でした。ライブのような雰囲気でスタジオ録音するというやり方で新鮮でした。テイクも何回かやった曲もありますが、同じ演奏をするのではなくて違うセットとして演奏を行いました。 
30〜40分ごとに休み時間をとりましたがトークで盛り上がりましたね。そういったことも演奏にいい影響があったと思います。

 

ニューヨークでのレコーディングはヨーロッパとは違いますか。

オスロのレインボー・スタジオでは雰囲気や湿度も違って楽器の音も違ってきました。
今回はニューヨークのスタジオでまた違った感じです。しかし、なんといっても共演のミュージシャンの空気感の違いが大きいですね。ニューヨークでは街のリズムにも影響されながら自分の音楽をつくっていくということになります。

 
ニューヨークに住んで活動したいとは思わないのですか。

元々ボストンとニューヨークにいたことがありますからニューヨークに来るとほっとするという気分はありますね。ニューヨークと東京を密に行き来しながら連動したいい音楽を作っていきたいと思います。

 

.いまアキコさんが注目しているミュージシャンは誰ですか。

須永辰緒さんが紹介してくださったestですね。ピアノのエスビョルン・スヴェンソンが亡くなりすごくびっくりしています。彼は新しい形のピアニストです。ピアノの音響を変えるのですがナチュラルな感じを残しているんです。アコースティック・ピアノの可能性を高めるという意味でも注目していました。

 

7月25日から始まるCD発売記念の「GRACEFUL VISION TOUR」はいろいろなミュージシャンとの組み合わせですが、なぜレギラー・メンバーを組まないのですか。

好きなタイプのベーシストが何人かいるのでその組み合わせの妙を楽しんでいます。アルバムの内容も充分伝えてあるのでいい演奏ができると思います。

 

.ライブを重視しているように思いますが。

はい、そうです。ライブでの演奏が深まって曲になり次の作品に反映されていきます。

 

ホールとライブハウスとどちらが好きですか。夏フェスの予定は。

それぞれのよさがありますね。
ピアノの響きを瞬間的にキャッチしながら曲の内容を変えて行けるところがジャズのよさですね。

北九州の若松鉄人ジャズ・フェスティバル(3回目)、おかやま国際音楽祭、修善寺の境内などジャズ・フェスの予定があります。

 

今後の抱負を聞かせてください。

今回のニュー・アルバム「グレースフル・ヴィジョン」であたらしいビジョンを打ち出せたと思っています。
これからは、今回のアルバムを発展させ自分がリアルに表現したいものを音に移していく。真の音楽、即ち、インナー、内面から出て行く音楽を作りたいです。

どうも、ありがとうございました。

 

<<ファンの皆様へ>>

渾身の一枚ですのでアルバムを全曲通してじっくり聞いてください。(2008.7.15)

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