--- アルバムのタイトルのマル・ウォルオロンの“Soul Eyes”ですが、すばらしいバラッドの演奏を行っていますね。この曲に思い入れがあるのですか。
こんにちは。バラッド演奏をお褒め頂き、ありがとうございます。「名プレーヤーは例外なく名バラッド・プレーヤー」と言われますので、バラッドをお褒め頂けると、うれしいですね。まあ、その逆は真ではないかもしれませんが。
そうですね。ふと気づけば、これはマル・ウォルドロンの曲で、淡々としたメロディーの中に、熱い情念が揺らいでいる情感の曲です。
近年、晩年のスタン・ゲッツに共感し、本アルバム収録曲はその頃のゲッツのアルバムから選んだものが多くありますが、この「ソウル・アイズ」もその中の1曲です。
私は、バラッドの演奏が好きなのですが、この曲は、メロディーやコードが淡々と進行し、リスナーに聞かせるのは難しい曲だと思います。私にとっては挑戦的な曲でもあります。アルバムタイトルとジャケットデザインとのマッチングも気を配ってみました。
--- アルバムの聞き所を教えてください。
以前から、録音した自分の演奏を聴くと、なんか寂しげな雰囲気が漂っていると思っていました。先日、ピアニストの友人が、その感じを「叙情性」という言葉で表現してくれました。恥を忍んで大胆な言い方をすれば、私の演奏のポイントは、「統一的な叙情性」ではないかと思っています。ジャズには、ドライブ感、高揚感、高い技術性、または音楽理論や演奏内容の先進性等、いろいろ、味わうべき要素がありますが、私の演奏のポイントは、いつでも、叙情性だと思います。
かつてのLPレコードは、大きなジャケットのデザインと演奏内容が一体となってそのアルバムの雰囲気を形成していたと思います。大きなジャケットやA面、B面はなくなってしまいましたが、「ソウル・アイズ」にもアルバムとして何らかの雰囲気を感じていただければ何よりです。
--- あなたは、Artistic Jazz Workshopのメンバーのようですが、このワークショップについてご説明をお願いします。
Artistic Jazz Workshopというのは、宇都宮のジャズクラブ「近代人」で定期的なライブを継続しているコンボの名称です。そうですよねえ。「ワークショップ」は、日本語にすれば「研究会」と言ったニュアンスでしょうか。30年程昔の、宇都宮大学のジャズ研究会が母体になっていますので、そのあたりの意味づけもあったかもしれません。創設当時のメンバーは既に私一人になってしまいましたが、継続して宇都宮で活動しています。これまでに色々な人が来て、色々な人が去ってゆきました。「ワークショップ」かもしれませんね。今のフルメンバーは、トランペットとギターを加えたセクステットです。本アルバムはその内の3人にバイソン片山さんを加えて「亀和田國彦カルテット」として演奏したものです。
--- CDの演奏は、非常にコンビネーションがいいですが、メンバーは、かなり長く一緒にプレイしているのですか。皆さんを紹介してください。
ピアニストの野中利香(りか)さんとベーシストの岩見達也さんは何れも宇都宮のプレーヤーです。野中さんとは5年程度、岩見さんとは30年程度のお付き合いになります。
野中利香さんは、二十歳代の頃、父親が経営する会社が倒産するという経済的苦境の中で自ら学費を捻出し、また奨学金を受けてボストンのバークリー音楽院で学んでいます。アルバム収録曲の「ザ・ドルフィン」は、奨学金のオーディションで演奏した曲だそうです。彼女は、どんな性格の仕事も堅実にこなして信頼が高く、今、宇都宮で最も忙しいピアニストの一人です。
ベーシストの岩見達也さんの演奏経歴は東京のキャバレーで始まり、近年はもっぱら宇都宮で活動しています。私は、彼の、ボサノバに対するタイム解釈がとても好きです。本アルバムでも、ボサノバ・リズムの曲、特に「ザ・ドルフィン」にその良さが聴けると思います。感受性が高いのですがその裏返しで精神的に弱い面があり、一歩歯車が狂うとすっかり調子を落とすこともあります。
--- ドラムスの名手、バイソン片山が参加していますが、彼とのつながりを教えてください。
名手と言われるドラマーにもいろいろなスタイルの方がいらっしゃいます。バイソンさんのスタイルは、1枚のシンバルから一拍一拍のビートを叩き出すと言うより、ドラムセット全体からサウンドとしてビートが出てくるスタイルです。私はその演奏スタイルがとても好きで、以前からご一緒させていただきたいと思っていました。以前、宇都宮で演奏された夜のアフターアワーに、私のライブに顔を出していただき、お知り合いになる機会がありました。
今回のCD録音は、リハーサル1回、本番2テイク程度と極めて短時間で採りましたが、そのなかで、瞬時に曲想を理解して演奏に反映する力は、私の予想を遙かにしのぎ、大変感激しました。たとえば、「ウインドウズ」のテーマ部のバッキングに展開されるブラシワークはとうてい私にはイメージすることすらできないアイディアと演奏内容です。さらにソロ1コーラス目の前半はバイソンさんと私のデュオになりますが、ここではバイソンさんのすばらしいスティックワークが聴け、緊張感のある場面が録音できました。
--- 宇都宮といえば、渡辺貞夫の出身地ですが、ジャズは盛んなのでしょうか。
そうなんです。貞夫さんは宇都宮出身なんです。宇都宮市には、ジャズクラブ、バー、レストランなどが加入している「宇都宮ジャズ協会」という組織があります。また、市役所の文化課には「ジャズの街委員会」があります。これらの組織は、「ジャズ」という言葉をかなり広義に捉えていて、市内ジャズファンの中にも多様な意見がありますが、「ジャズ」を看板に出していただいているのはありがたいことだと思います。ジャズの演奏が入っているお店やプレーヤーの数は、50万人という街の規模に比べれば多いと思います。お客様の確保に苦慮するのは、いずこも同じでしょうか?
--- .あなたのアルトサックスは、柔らかで美しいトーンで酔わされますが、楽器やジャズはどのように勉強したのですか。
音色をお褒め頂きありがとうございます。音色は、サックスの演奏にとってとても重要な要素です。
楽器の奏法、ジャズ理論共に、独学です。いやいや、独学というほど学んでいないかもしれません。私は、一つの音階を出すのに一通りの指使いしかできず、楽器には全く使わ(え)ないキーがたくさんあります。「このキーは何に使うのかなあ?」と思っていましたが、どうやら、木管楽器には、「変え指」という何通りかの指使いがあるらしいのです。ジャズ理論は、演奏を始めて間もない頃、やはり宇都宮出身のギタリスト高内晴彦さんに基礎を教えていただきました。それ以後は「近くの先生よりも遠くの名作」を信じて、いわゆるジャズ・ジャイアンツのレコード、CDを聴いて真似ています。時々、東京のサックスプレーヤーのライブを聴きに出かけますが、いずれの方も、音色、フレーズ共に、私とはだいぶ違うなと感じます。その評価はリスナーの好みにお任せすることにしますが、他の人と違うと言うことはジャズプレーとしての大きな財産だと思います。宇都宮は、東京から北に約100kmで、東京在住のプレーヤが日常的にライブで訪れるにはやや遠い距離です。いわゆる「ガラパゴス状態」で過ごしてきた30年間の日々なのです。
--- アート・ペッパーの影響を感じますが、好きなミュージシャンを挙げてください。また、日頃よく聞くCDはどのようなものですか。
アート・ペッパーは私のアイドルです。彼のアルバム「リビング・レジェンド」と「ザ・トリップ」は、いわば私のバイブルです。他には、スタン・ゲッツが大好きで、特に晩年の作品が好きですね。彼がやると、知っているはずの古い曲が厳かな響きを持ち、新たな命が吹き込まれます。また、美しいメロディーを淡々と吹くポール・デスモンドも好きですねえ。リー・コニッツの音には情念のようなものを感じますね。それから、これらプレーヤーとタイプは違いますが、スイスのアルト奏者ジョルジュ・ロベール(ジョージ・ロバート)を聞きます。彼はフィル・ウッズをアイドルとしていて、演奏スタイルもフィルに似ていますが、どうも、アルバムの選曲にはスタン・ゲッツの影響を強く感じ、共感します。ジョルジュは年齢も近いので、私は勝手にライバルだと思っています。我が国のホーン・プレーヤですばらしいと感じるのは、歌心溢れるフレーズを奏でるトランペッターの松島啓之さんです。
--- ジャズは、多様化してロックやクラブ・ミュージックやワールドミュージックなどとの融合が進んでいます。ジャズの方向性をどのように感じていますか。
芸術は、自己表現の手段ですね。ジャズは、曲を聴くよりも、プレーヤーとしての「人間」を聴くものだと思います。時代と共に形式がどの様に変化しようと、音の中にソリストの個性や人間性が感じられなければ、本質的なジャズの価値は失われると思います。インプロビゼーション(アドリブ)という手段の中で、プレーヤーが、物語や詩や感情を語れるのがジャズでしょう。甚だ不安ですが、リスナーやそれを取り巻く社会が、そのあたりをどう受け入れてくれるかに今後のジャズの運命がゆだねられていると思いま。
--- あなたが、演奏する時に心がけていることは何ですか。
インプロビゼーションの中にコードの色彩感と美しいメロディーを実現することでしょうか。アート・ペッパーが言う様に、「インプロビゼーションは、テーマよりも美しいメロディーを奏でなければ意味がない」を座右の銘としています。とうてい到達できるとは思いませんが、心がけや目指す方向、インプロビゼーションの考え方としては良いですよね。
--- .今後の、抱負を教えてください。
大きな夢はありませんが、今後もライブに併せてCDの制作を継続したいと思います。残念ながら世の中のCD販売枚数は1999年をピークに、その後減少を続けているようです。しかし、CDアルバムは、プレーヤーの音楽性を作品として形にして残せる点で魅力的です。ライバルのジョルジュを意識しながら挑戦的な姿勢で継続したいと思います。また、私は、本来、いわゆる「歌もの」と言われるトラディショナルなスタンダード・ナンバーやボサノバの演奏が好きです。そんなアルバムも作成したいですね。そして、少しでも多くの方に私の音楽性に共感していただけたら、とてもうれしいです。
売れ残ったCDは私の葬儀の参列者にお配りする予定です。お楽しみに。
(2010.7)
以上