
−11月発売のニュー・アルバム「哀歌」は若手ミュージシャンが入ったカルテットですが、レギュラー・メンバーですか。
田中信正(Pf)、安田幸司(B)、長谷川学(Ds)というメンバーですが、田中君は僕より2こ下になりますね。
メンバーは今はレギュラーですが成長して入れ替わるようになればいいと思っています。
僕は、若手ミュージシャンの目標になるようなバンドにしたいと思っています。すごくなったら次の人に代わってもらうようなバンドが目標です。
あのバンドに入ったらやりがいがあるよっと言われるようになればいいですね。
自分も日野元彦さんの元で育ててもらったのでその弟子としてそれを継ぎたいと思ってるいるんです。
若いミュージシャンも僕と一緒にやると喜んでくれるので僕も勉強のつもりでやっています。自分達の世代だけで固まってやっていても活性化しないですね。若手を育成してもっと活気のあるジャズ界にして行きたいです。
−今、優秀な若手も沢山いると思いますが。
ミュージシャンとして大事なことは”守るべきもの”を貫くこと、即ち、スタイルを保持することですが、それは守りにもつながるんですね。守る余り失っていくものもあると思うのです。
若い人は”守るべきもの”をまだ持っていない訳で背水の陣で常に戦っています。そういう人と一緒にプレイすることは僕にとっては大変刺激的ですね。若い人にとってはチャレンジして恥をかけるという点がいい点でもあります。
ガチッと作って壊す。若い人は壊すことが多いですが僕は直すのが役目です。そうした中で自分も成長していければいいと思っています。自分にできる限界のところでプレイしていきたいですね。
−川嶋さんは大学卒業後一旦サラリーマンになってその後プロに転向したそうですね。ジャズへの情熱は人一倍強いということですか。
はい、そうです。5年間会社勤めをしていました。生産機械の営業をやっていたのですが見積もりが苦手でいつも間違えるんです。自分で自分を信用できなくなりましたね。それでプロ・ミュージシャンになることを決意しました。
音楽は独学ですね。今でも勉強しています。
−どのような勉強法ですか。
例えば「ジャズ・ライフ」誌に理論講座を執筆していますが、自分で勉強しないと書けないです。強制的に教える機会を作って勉強しています。
今、ヤマハで講師をやっていますが音楽大学からも講師のオファーを受けています。人に教えるということは自分も勉強しなければならないので為になります。
−最近、音大出のミュージシャンが多いですが、何か物足りないという人もいますが。
僕は音符中心でなく自分の言葉で語り情念型にして行きたいと思っています。
−ところで、川嶋さんは、これまで無伴奏ソロ、ディレクション、TMD、カルテットなど様々なフォーマットで演奏していますが、それぞれの目的は何ですか。
フォーマットは様々ですが、僕はジャズのイディオムしかやっていないんです。以前、評論家の中川ヨウさんが「川嶋さんは結局ジャズしかやっていない。これだけジャズしかやっていない人も珍しい」と言われ大変うれしく思いました。判りやすく言えば、僕はいつでもビバップをやっているんです。
ですから、どのように相手が変わっても通用するということを自分の力で証明したいのです。
どのかたちで演奏しても僕のフレーズの内容は殆ど変わっていないと思います。ただ、アートとして聞いたときに違って聞こえるかもしれません。
内容はジャズなんです。それを確認するためにこのような様々フォーマットで演奏しているのです。あまりブレていないと思います。
−ハービー・ハンコックやチック・コリアはアコースティック・バンドとエレクトリック・バンドでそれぞれ別の音楽をやっているように思いますが、それとは違うということなのですね。
彼らの演奏はそう聞こえますか。う〜ん、比較になるとどうですかねえ。僕の場合頑固なところがあると思いますね。ジャズというのは何処に行っても誰とやってもガツンと自分のものを出すものだと思います。
−以前は、ポリスターで無伴奏ソロ・アルバムを出し、TMDはWhat's New RecordsとM&Iから。そして、デュエットやカルテットはM&I MUSICからリリースしていますがレコード会社の選択はどのように行っているのですか。
M&Iの横田プロデューサーは僕の個人的なファンでした。結果的に今はM&I MUSICからリリースしています。やはり、ミュージシャンはプロデューサーとの直接の関係が大事ですね。
−川嶋さんは国内での活動がメインですが海外での活動に興味はありますか。
最近、フランスへ行って演奏しています。自分と音楽のかかわりの認識を新たにするには大変いい機会と思っています。
僕は、英語やフランス語がまったくだめなんです。ですから、音楽だけで自分の気持ちを伝えなければならないのですが伝わったと感じられた時は音楽の力を思い知らされましたね。
また、昨年8月、竹澤悦子さんの箏とのデュオ「パッション・オブ・エイジア」がお蔭様で好評で米国での邦楽公演に参加するオファーを頂きました。ニューヨーク、ヒューストンで公演を行います。日本人として海外に行くことが目標だったのでうれしいですね。
−川嶋さんのフルートもとても好きで、特に、箏とのデュオでは日本人ならではのすばらしい演奏だったと思いますが。
フルートは6年前から演奏しています。邦楽との共演も和楽器の横笛とフルートは近い音が出ますからよりマッチします。日本の楽器と一緒に演奏する場合サックスだけだと表現が足りないのでフルートは重要ですね。特に、世界で演奏するためにはフルートは必需品です。どの国に行ってもセッションで出来ますから。
−アルバム・タイトルは「哀歌」となっていますが、本作のコンセプトはどのようなものですか。
「哀歌」とは日本的な演歌みたいな曲ですが、悲しい曲を指しています。
僕は、アルバム制作の際は、半分くらい核になる曲を決めます。そして、リハーサルやレコーディングの後、足りない曲を補うというやり方をとっています。その方がアルバムとして色彩感が出ます。全部マイナーとか全部明るい曲というのでは面白くないですね。
−2曲目の”ユー・マスト・ビリーブ・イン・スプリング”はミッシェル・ルグランの曲ですが、これを選んだのはどのような理由ですか。
最近2〜3年は毎年フランスへ行って1ヶ月程演奏しています。ルグランについては直接面識はないのですが、彼はフランスでは大スターで皆ルグランの曲を演奏します。なかでもこの曲は気に入っていますし、コード進行も難しくミュージシャンにとって倒し甲斐があるので選びました。
8曲目の”かもめ”はポルトガル民謡の"ファド"です。この曲と5曲目の”暗い日曜日は”横田プロデューサーから是非やってほしいと言われ、実際に吹いて見てやることにした曲です。”暗い日曜日”は淡谷のり子さんも歌っている有名なシャンソンです。たしか、ビリー・ホリデイも歌っていますね。”かもめ”はアマリア・ロドリゲスの名唱と、日本ではちあきなおみさんも歌っています。
とにかく自分が吹いて幸せな気持ちになれる曲をやりたいと思っています。
−4曲目の”メイルストロム”や8曲目の”かもめ”はジョン・コルトレーンを思わせるスリリングでエキサイティングな演奏ですね。
はい、。僕は、直情型なのでアートとしてコルトレーンの一音に近いと思いますね。
マイケル・ブレッカーは僕の100倍くらいうまいのですが迫ってくるものがないですね。
−川嶋さんのテナーの音は一発で川嶋さんと判る個性的な音ですが、どうしてそのような音が出るのですか。
やー、ありがたいですね。(笑い)生き方というしかないですね。
−川嶋さんは硬派のイメージですがフュージョンやポップスの世界に興味はありますか。
フュージョンやポップスは聞かないですね。自分の演奏は勿論聞いていますが、もっぱら、クラシックと民族音楽を聞いています。それらは、一音の存在感がすごいです。
フュージョンやポップスは強い歌、すばらしいメロディー、立場を明らかにしている演奏があれば聞きたいと思います。
−川嶋さんにとってジャズとはどのような音楽ですか。
僕は、その前に音楽とはというものかがあります。音楽とジャズと違うと思っています。ジャズはアメリカの文化であって4ビートであって、4ビートって一番難しいんですがそういうものがきちんとなされたものがジャズですね。
僕はジャズ出身ですがジャズを演奏しているのではなく音楽をやっているんです。ジャズは音楽の一部でしかないと思っています。ですから、一番やりたいことはジャズではなく即興音楽家になりたいと思っています。但し、ジャズを尊敬し、ジャズに支えられているのは事実ですね。
−日頃聞いている音楽、注目しているミュージシャンは。
バッハやモーツアルトを尊敬しています。毎日寝るときはバッハのバイオリン無伴奏を聞いています。パット・メセニーもそう言いきっていますね。音楽を使って風景を表現したり言葉を載せたり何かを表現するということがありますが、バッハは音楽そのもを表現している感じがします。宗教音楽ですから神様へ向かって発信しているものですね。
−今後、どのような音楽をやりたいですか。
音楽家としては即興演奏家を目指したいと思っています。
自分はこういう人間であるという立場を明らかにし責任とる、そうした音楽家です。若手のミュージシャンの手本になるようになりたいですね。
−抱負をお聞かせください。
今年の米国での邦楽公演を成功させることです。公演は四囃子とデュオですが、僕は、竹澤さんとのデュオを行います。8〜9日のツアーです。
−是非、邦楽公演を成功させて日本のジャズのアイデンティティを示してください。
どうもありがとうございました。
ステージやCDの演奏からは硬派で近寄りがたい感じを持っていましたが、実際にお話を伺うと丁寧に回答して下さり、音楽に対して厳しく純粋な情熱を持っているアーティストという印象でした。今後の活躍が一層楽しみです。
(2008.1020)