
リズマトリックスは結成して4年だそうですが、メンバーのコモブチキイチロウとは15年も一緒にプレイしてきたそうですね。音楽観で共通するものは何ですか。
強烈で多彩なリズムに圧倒されますがパーカッッションの安井源之新はどのようミュージシャンですか。
彼は学生時代をブラジルで過ごし、その後、プロのミュージシャンになった後でまた4年間サンパウロへ行っている。
ブラジリアン・リズムの「訛り」にどっぷり魅了されて育った人物です。この訛りも、元々はジャズと同じ「アフロ」感覚から来ています。
ぼくはメインストリームのジャズやR&Bもプレイしますが、このメンバーではやはりラテンビートがハイブリッドした、
コンテンポラリーなリズムを作りたかった。それで「RHYTHMATRIX」という名前にしたんです。

アルバムのどのようなところを聞いてほしいですか。
本場のサンバ、ボサノバに近い曲もある。逆に、ブラジルには無いようなリズムの曲もある。しかもブラジルのスタンダード・ナンバーを、あえてブラジル人はやらないようなアレンジでやっている。そういう多彩さ、幅の広さを聴いて欲しいです。単なるブラジル音楽のコピーじゃなく、日本人であるぼくらだからこそ出来る音楽。ジャズもソウルも、ヒップホップもクラブ音楽も知ってる現代人だからこそ作れる音楽、という部分を聴いて欲しいです。
それから、これはどんな作品にも言えることですが、それぞれのアーティストが細部にまでこだわって作っています。特に源之新のパーカッションは何度もダビングを重ねているし、ぼくもピアノ・エレピだけじゃなく、キーボード、ストリングスなど綿密にアレンジし、ミックスにもこだわりました。
何度も聞いてもらえれば、そういった細部にまで耳が行くのではないかと思います。
ブラジル色の強いサウンドですが、クリヤさんはヨーロッパ、オーストラリア、台湾など世界各国で公演を行っていますが、ブラジルにこだわる理由は何ですか。
ブラジル音楽は、昔から大好きです。たまたまぼくの身近に、大好きなブラジル系ミュージシャンがいたからこのユニットが生まれました。
でもぼくらが目指しているのは、ネイティブのブラジル人をコピーする事じゃない。そんなの、ブラジル人じゃないんだから無理です。
むしろ、グローバルな現代社会で、様々な文化が混じり合い、ぶつかり合うことによって生まれる「ハイブリッド・ジャズ」をやりたいんです。
コモブチ・源之新両氏は、確かにブラジル音楽を知り尽くしている。一方ぼくは、アメリカに住んでいた時期が長くて、アメリカのジャズを知り尽くしている。
この3人が一緒に音楽を作ることによって、まずは一種の軋轢が生まれ、それが成熟して新しいハイブリッドな音楽が生まれてきます。
ぼくがこの考えに着目したのは、モロッコ〜スペインの旅をした時なんですよ。日本にいるだけじゃ考えられないような新しいインスト音楽が、地中海では展開しています。ビッグバンドにフラメンコが入っているジャズとか。インストに限らず、R&Bとフラメンコを融合したようなネオ・フラメンコとか、さらにサルサやアフロリズムが融合したようなプログレッシブなポップスとか、アラビア語のラップとか。
アフロ〜イスラム文化と西洋文化が行き来する場所なので、ものすごいハイブリッドが生まれているんです。
アフリカ諸国も急速に近代化して、音楽もすごく知的に洗練されてきた。そういう時代なんです。
ブラジルのミュージシャンは誰に注目していますか。
ボサノバが生まれた60年代のブラジル音楽からず〜っと好きですから、とても一口には言えない。基本的に、ぼくら3人ともセルジオ・メンデスは好きです。
ぼくはアメリカ時代に、ドリイ・カイミなどを良く聴きました。マニアックなところでは、エルメト・パスコアールのような、とてつもなくクリエイティブなアーティストがポカッと出てくるところも好き。
源之新は、パスコアールの他にエグベルト・ギスモンティ、ギンガといった、オルタナティブなアーティストが好きなんです。
それから、コモブチ・源之新が二人とも影響を受けたと公言しているのが、フィロー・マシャードというアーティストです。
ぼくもアルバムを聴いたりライブも見ましたけど、体中がサンバ、存在そのものが音楽、みたいな人です。
多くのゲスト・シンガーが参加していますが、それぞれのつながりを教えてください。
サイゲンジは、コモブチ君の紹介でRHYTHMATRIXのライブにゲスト参加してくれて、一緒に台湾にも行ってくれたんです。RHYTHMATRIXの世界とは
最もフィーリングの合うアーティストだと思います。彼も「肉体派」ですからね(笑)。基本的にRHYTHMATRIXはインストバンドですが、スキャットが得意でギターやケーナも吹くサイゲンジは、楽器の一つとしてつきあえます。ブラスやストリングスを使って、強いリズムに仕上げた「Berimbau」の世界は、サイゲンジ無しでは達成できなかった。
台湾公演は本当に素晴らしかったです。熱狂的な歓迎を受けて、もの凄い拍手と声援が鳴り止まなくて、ぼくらが持参したCDは一瞬で売り切れました。
台湾の音楽ファンは熱いです!
土岐麻子ちゃんは、ぼくが彼女の作品に何枚か参加させてもらって、その縁でぼくの作品にも参加してもらいました。彼女はオーガニックでポップなイメージだけど、匂いのあるファンキーな曲も意外に似合うんじゃないかと思って、あえて彼女のイメージとはちょっと違う曲をぶつけてみました。
それがまた、まさにイメージ通りで。キュートだけどインパクトの強い曲に仕上がりました。
青木カレンちゃんも、ツアーやレコーディングでぼくを誘ってくれたのが最初の縁です。オマケに彼女とはレーベルメイトになってしまったので、是非「RHYTHMATRIX」にも参加して欲しいなーと思ってラブコールしたわけです。普段3人だけでプレイしている静かなボサノバに参加してもらったんですが、彼女のコーラスが入った途端に、まるで別の曲みたいに生き生きして。とても感謝しています。
Wilmaは、ポルトガル語でヴィウマと読むんですが、日本で長く活躍しているベテランのシンガーです。コマーシャルなどもよく歌っている方で。
今回、コモブチ君作の曲に、彼のこだわりもあってポルトガル語の歌詞をつけたんです。となると、やっぱりネイティブに正しい発音で歌ってもらうのが一番美しいよね、ということでお願いしました。同じ理由で「イパネマの娘」も歌ってもらいました。やはりホンモノ、問答無用の説得力ですね。
さらに今回は、まだソロシンガーとしてデビューしていない、新人アーティストも起用しました。ayanoちゃんというんですが、たまたま彼女のデモを聴いて、ぼくが思い描いていた「素顔のままで」バラードバージョンの世界観にぴったりだったんです。インストバンドのはずが、ハッと気づいたら 「歌モノ」だらけになっていました(笑)。
オリジナルが4曲入っていますがとてもいい曲ですね。曲づくりはどのように行っているのですか。
ぼくとコモブチ君が持ち寄って、それぞれのアイデアにそってアレンジを造り上げていく感じです。コモブチ君の曲は、今のところ「So Mar」1曲しかないんですが、この曲はぼくが大好きで「是非に」とお願いしてレパートリーにさせてもらったんです。実は15年くらい前から一緒にプレイしてきた曲で、彼は演奏しながらどんどん発想が沸いてくるタイプなので自然に発展していって、実はレコーディングの後さらにアレンジがマイナーチェンジしたんです(笑)。
ぼくの曲に関しては、ぼくの方で予めイメージがあって、それを説明しながら一緒に作っていく感じです。中でも「Don Segundo」という曲は長い歴史があって、
2004年にリリースした「Latin Touch」というアルバムにオリジナル・バージョンが入っています。RHYTHMATRIXで長年ライブを重ねた結果、今回のスパニッシュ・バージョンに最終決着した感じ。「この曲がベスト」と言ってくれる音楽通の方が多いので驚いています。
最近のクラブ、ダンス・ミュージックに関心がありますか。本作はクラブ・ジャズとも言えると思いますが。
ぼくは実は、ベテランDJの方と一緒に「Rhythm Of Elements」というユニットを長年やっているんですよ。そちらはマーケティング的には
「ディープハウス」という、かなりマニアックなジャンルなんですが、その世界では割と知られた存在で。世界中のDJがプレイしてくれています。
そんなこともあって、昔から割とクラブに出入りしてます。クラブ音楽もかなり好きで、ジャズ系で言えば昔流行った「ニューヨリカン・ソウル」とか、
「BLAZE」とか、めちゃめちゃ好きです。黒人音楽も一般的に好きなので、「ROOTS」とか「COMMON」とか「ピートロック」とか、あの頃のヒップホップも大好き。
音楽に関してはジャンルの関係ない人間なんです。他にはサルサも好きだし、もちろんファンク・ソウル系も好きだし。
マニアックな年配のジャズファンの方たちが、「ジャズは死んだ」と公言してから久しいですよね。それはまあ、ある意味で事実かもしれませんが、アーティストの立場から言えば今の新しい音楽の中にもジャズの要素はいっぱい詰め込まれている。フォーマットが少しばかり違っているだけで、
ジャズのスピリットは変わっていません。アドリブとかインタープレイがジャズの主要素ではあるけど、もう一つ「イノベーション」というのも重要なジャズ・スピリットなんですよ。
先ほども言ったとおり、ぼくらはそれぞれジャズやブラジル音楽をプレイしてきたけど、今挙げたような様々な音楽を聴いて、時には演奏して育ってきました。
だからこそ、今のぼくらに生み出せるコンテンポラリーな音楽があるんです。ちょくちょくクラブに出入りしているぼくが、クラブ音楽の影響を受けないわけないですよね?これはぼくらに限らず、現在世界中の音楽シーンで起こっていることです。
最近どのようなCDを聞いていますか。
できるだけ、このインタビューで話してきたような「ハイブリッド音楽」を聴きたいと思っています。スペインの「ケタマ」のようなポップスとか。
これは日本で言う「ポップス」のイメージとあまりにかけ離れているので、日本の皆さんが聴けばポップスとは思わないかもしれません。
ネオフラメンコも聴きます。
あと、ブラジル音楽はやはり聴きます。ジャズもそうですが、ブラジル音楽自体が非常にハイブリッド要素の強い音楽です。サルサもビッグバンドやファンクのようなアメリカ音楽とアフロ・ラテンのハイブリッドだし、ヒップホップはジャマイカやハイチ移民たちがプレイしていたダンスホール・レゲエと、アメリカのソウル・ファンクなどのハイブリッドです。世界中で音楽が沸騰し、ハイブリッドしています。島国日本は、ある意味取り残されているかもしれない。
最近は日本のジャズがクラブ方向へググーっとシフトしてきたけど、やはり若者の感性はグローバルな感覚を先取りしているんですよね。
マンガやアニメと同様にクールジャパンの一環として、ある意味「日本のサブカルチャー」的な位置づけで、こうしたジャズが海外でも受け入れられている
現状は嬉しいですね。
今後のクリヤさんの音楽の方向性をどのように考えていますか。
さんざん言ってきたことと重なりますが、やはり日本に閉じこもっていたくない。アーティストは狭い世界に隠って、近視眼的に活動しているのではダメです。
世界中でいろんな人と出会い、セッションし、知らない音楽をいっぱい聴いて、たくさんショックを受け刺激を受けたい。
世界へ出て行くと、刺激を受けるのと同時に「ローカリゼーション」に打ちのめされます。グローバリゼーションの影響で世界中の文化がぶつかり合い、沸騰しているのと裏腹に、それぞれの地域のアーティストが自分たちのマーケットを守ろうとして内向きになっている現状もあるんですよ。
こういうのに「打ちのめされる」のもまた良い経験です(笑)。
現在イギリス、ハンガリー、エジプトから演奏の依頼があって、スケジュールを調整しているところです。ヨーロッパも大不況なので大変ですが、来て欲しいと言ってくれる場所にはやはり、多少のリスクを冒してでも行きたい。
結局たくさん外へ出て行って、いろんな物を見聞きして、興奮したり叩きのめされたり試行錯誤しながら掴んだものを、素晴らしい魅力的な音楽の形で日本の皆さんに伝える。それが使命だと思います。
(2009.7.9)