
前作の「ジャズ&アウト マリーンmeets本田雅人B.B.Station 」と本作はサウンドが大分違いますね。
前作はスイング・ジャズでした。その発売記念ライブをブルーノート東京で終えた夜、プロデューサーの生明(あざみ)さんと食事をした時・・もう深夜になっていてレストランは閉まっていてラーメン屋さんだったんですけど・・、今度は何をやりたいかという話になったんですね。それで私はラテンをやりたいって言ったんです。20年くらい前から色々な方にラテンをやったらと薦められていましたし、デビューしてそろそろ30年になるので色々チャレンジしたいという思いもあって。・・ラテンは自分の血にも入っていますしね。それで、以前から知り合いのカルロス菅野さんとやりたいと言ったんですが、まさかその話が実現するなんて思っていなかったので嬉しかったですね。
ラテンジャズのほうがマリーンさんの明るいキャラクターに合っていますね。
今回のアルバム「マリーン Sings 熱帯jazz」の選曲はどのように行ったのですか。
皆で曲を出し合って絞り込んでいきました。最終的にはカルロスさんが決めたのですが、進めて行くうちに私もいろんなアイデアが湧いてきちゃって、この曲はもっとラテン色を強くとか。ここはもっとピアノを出してというようなリクエストを結構出しました。それはカルロスさんが既にイメージを作った後だったりもしたんですが、カルロスさんは嫌な顔もせず「判った」と言ってラフ・アレンジをどんどん進め、音を聞かせてくれました。本当に感謝しています。
このアルバムはスティーブ・サックスさん、森村献さん、中路英路さん、奥山勝さん、青木タイセイさんと、複数の方々にそれぞれのセンスでアレンジしていただいたのですが、まったく違和感がないんです。普通だとかみ合わないところがでるんじゃないかと心配するんですが、どの順番で聞いてもきれいに流れるんです。カルロスさんが5人のセンスを判っているんですね。おかげですごくカッコいいアレンジになりました。
CDを聞かせていただいて本当に丁寧につくられているなと感じました。
リハーサルを重ねたのでサウンドのクオリティーは非常に高くなったと思います。スタジオ・ライブの形式でレコーディングしたので、皆の気持ちが溢れているラテン・ジャズらしいアルバムになりました。私の歌は差し替えた曲もありましたが、バンドの演奏はソロのテイクを差し替えるくらいで殆ど編集はしていないです。
ヒット曲の”マジック”を歌っていますがポップスとジャズ・ボーカルはどう違いますか
ポップスは気楽に歌えますが、ジャズは緊張感が違いますね。ポップスはそのまま流れで歌えますが、ジャズはミュージシャンの気持ちを掴みながらピンポンしますね。例えば、ソロの長さも最初は8小節と決まっていたのにステージに立ったら今日はノッテいるので続けて歌えというサインが出たりします。ポップスではそういうことはありませんね。
フィリピン出身のシンガーは日本で沢山活躍していますが、フィリピンはジャズが盛んなのですか
最近盛んになっていますが日本と比べたらまだまだですね。私が歌手としてスタートした時は自分ではジャズという意識はありませんでした。フィリピン出身でペペ・メルトというミュージシャンがいました。彼は1960年代日本で有名なピアニスト、アレンジャーだったそうです。原信夫とシャープス・アンド・フラッツや高橋達也さんのバンドなどでも活躍していましたが、日本のジャズに大きな影響を与えたそうです。その彼に「スタンダードをレパートリーに入れなさい」とアドバイスされました。「流行の歌だと今だけだけどスタンダードならマリーンが何歳になっても歌えるよ」って。フィリピンではホテルのラウンジやビア・ガーデンでは必ずスタンダードのリクエストがあるんです。
私は、スタンダードがジャズの曲であることを、日本に来てはじめて知りました。六本木のバランタインというジャズ・クラブに週に1〜2回出演していた時ですが、自分の出番が来るまではバンド裏手の本棚にいっぱいあるスイングジャーナルを見ていたんですね。その時にエラ・フィッツジェラルドやカーメン・マクレイ、サラ・ヴォーンを知りました。ヘレン・メリルなど他の歌手についてお客さんからも教えてもらいました。そのような状況でジャズというものを自然と身に着けたと思います。
亡くなったドラムスのジョージ川口さんがレイモンド・コンテさんにジャズを教えてもらったという話を聞いたことがあります。昔はフィリピンは日本よりジャズは進んでいたのですね。
はい、そのような話も聞いたことがあります。ビンボー・ダナオという歌手が日本で活躍していました。私が日本に来る30年前のことです。
マリーンさん英語が達者ですがフィリピンでは普通の人は英語を話すのですか。
英語は小学校4年生から学びます。私立の小学校では1年生からです。発音はネイティブとは違って訛りがありますけど話すことは出来ますね。よくジャズを歌いたいけど何を勉強したらいいですかと聞かれますが、まず発音をきちんと勉強してくださいと言います。そのためには映画のセリフなどを真似するといいですね。また、好きな歌手、例えばヘレン・メリルならのヘレン・メリルの発音を徹底的に真似することです。そうしないとリズムに乗っかれないのです。発音がカタカナ読みだとジャズにはなりません。日本のジャズ・シンガーでもいい声をしているのに発音がよくなくてもったいないと思う人は沢山います。
最近のジャズはポップス寄りの歌や色々なスタイルがありますがマリーンさんが考えるジャズとはどういうものですか
あまり意識しないんですよ。スタンダードを歌うのが好きなんです。4ビートになった時はジャズを意識しますけど、ジャズはこれだということはないです。ただ、スイングするかどうかということは大事です。私はポップスも歌いますがジャズに移ると気持ちがいいですね。ポップスを歌った後に”マイ・フェイバリットシングズ”を歌うと、穴にスポーンと入った気持ちですね。ジャズを歌ってからポップスに続けるのは自然に行けるんですが、ポップスからジャズに続けると別世界に入った感じになります。
ジャズ・シンガーと呼ばれることにどう思いますか。
私は、ただの歌手だと思っています。フィリピンで歌手をスタートしたころジャンルが1つでは歌手といえないと言われました。だからプロ歌手としては何でも歌えないといけないと小さい時から思っていました。ジャンルを超えた歌手になりたいと思っています。
日本に来て30年とシンガーを長く続けているわけですが、心がけていることは何ですか。
あまり意識していませんね。人に迷惑を掛けないことを心がけています。フィリピンで歌手になったばかりの頃、先輩からどんなに成功しても必ず振り返りながら進みなさいと言われました。スタートがあったからこそ今があるということですね。そして、いつも神様にありがとうと言っています。歌を歌えるということは神様が与えてくれたことでいつ声や喉を取り上げられるか判りません。ステージに立つ時はいつもこれが最後かもしれないという気持ちで歌っています。
健康面では、私はたばこやお酒は好きではないです。喉を冷やさないように水は氷なしで飲むようにしています。後はよく食べてよく寝ることが秘訣かもしれません。小さい身体で大きな声がよく出ると言われますが、ヨガやダンスクラスもあるスポーツクラブに通いなどでスタミナをつけています。
マリーンさんが影響を受けたミュージシャンは誰ですか
バーブラ・ストライサンド、ライザ・ミネリ、カーメン・マクレイ、エラ・フィッツジェラルドです。一番好きなのはシャーリー・バッシーですね。エラはジョー・パスと一緒に日本に来たときに、ギター1本で素晴らしい歌を聴かせてくれました。椅子から乗り出して聴いていましたが涙がこぼれるほど素敵でした。80歳くらいになったらエラみたいに歌いたいと思っているんです。バーブラ・ストライサンドはサンノゼで聴きましたが、やはりオーラがすごくエラと同じくらい感動しました。
日頃はどのようなCDを聴いていますか
家では自分の制作中のCDやライブのビデオを聴いたりします。他にはアバやフレディー・マーキュリー、飛行機に乗るとクラシック、最近はブラジル音楽、となんでも聴きますよ。
いままでミュージカルやドラマなどもやってきましたが今後の芸能活動の計画は
自分はまだまだ行けると思っています。前作を発表した時に、自分はメジャーになるんだと、気持ちをゼロにリセットしました。ですからこれからもあらたに色々チャレンジしていきたいと思っています。ミュージカルやドラマなどもオファーがあればお受けしたいと思います。
最後にJazz Pageの読者にメッセージをお願いします。
今マリーンを知った人、今までマリーンを知っていた人、マリーンを大好きな人、皆さんにもっとマリーンを感じてほしいと思っています。是非、新譜「マリーン sings 熱帯JAZZ」を聴いてください。よろしくお願いします。
−30年もプロのシンガーとして活躍しているにもかかわらず、初心を大切に今でも努力してしているマリーンさんの真摯な気持ちに感動しました。
(2009.3.4)