----- 本作は、ハンプトンをはじめデューク・エリントン、カウント・ベイシー、イリノイ・ジャケーなどのビッグバンドで活躍してきた三上さんの仲間(クリスチャン・フェビアン(B)、デヴィッド・ギブソン(Ds)、クリアランス・バンクス(Tb)、マイケル・ハシム(Sax)))とのリラックスしたスイング・ジャズですが、どのようなところを聴いてほしいですか。
リスナーの皆さんに名門ビッグバンドに在籍し演奏してきたプレーヤー達の重みと音を感じていただきたいです。
----- 本作では、ライオネル・ハンプトン楽団はじめ名門ビッグバンドの有名曲を取り上げていますが、それらはビッグバンドのイメージが強くコンボで演奏する時にやりくいことはありませんか。
ビッグバンドで使われているアレンジそのものを生かして小編成用にしました。各楽器のセクション5人分を1人が担当しているわけで、サックスとトロンボーンの2人とトリオとの絡みが面白い結果を生みました。トリオだけでの演奏の際にも録音中には私の耳には13人分(ビッグバンドは通常16人編成なので、16−3=13人)の音が聞こえていました。
----- レコーディングはニューヨークで行い僅か1日で完了したようですが、何故そんなにスムーズに出来たのですか。
録音に何日もかける、という事が私には驚きです。ヘッドアレンジにも強いベテラン達が、いつもやっている演奏を録音したのでとてもスムーズで各曲2回くらいのテイクでした。後日行なったマスタリングの方に時間がかかりましたね。皆、忙しいので録音に2日間取るのが難しい、という事情もあります。
----- 三上さんは、1991年からヴァイブラホンの巨匠、ライオネル・ハンプトン楽団に専属ピアニストとして活動されていましたが、ライオネル・ハンプトンに見出された経緯を教えてください。
オーディションがあったのです。口コミでミュージシャンを紹介しあうジャズの世界では異例の事で、オーデションは滅多にありません。マンハッタンの巨大なスタジオに楽器を持った連中が100人位集まって、演奏しました。その時は他のピアニストが選ばれたのですが、それから3年後に「来週ヨーロッパのツアーがあるけど一緒に行けるか?」という電話が突然かかってきたのです。3年間も私の連絡先を保存していてくれたのだ、ととても嬉しかったですね。
----- ライオネル・ハンプトン・国際フェスティバルが毎年開催されているそうですが、どのような内容なのですか。また、ハンプトンの後継のザ・ライオネル・ハンプトン楽団の構想などはあるのでしょうか。
このフェスティバルではジョージ・シェアリングやシャリー・ホーン、ナンシー・ウイルソン、私もステージで共演したエルビン・ジョーンズやベニー・ゴルソンなど実に多くのミュージシャンの演奏を耳にし知己も得てきました。素晴らしいコンサートが4日間続きます。内容に関しては私の著書「ニューヨーク・ジャズマンのおもしろジャズ語噺」(全音楽譜出版)にも詳しく書かれています。他のヴァイブ奏者を加えての新ハンプ楽団の構想はあるものの残念ながら実現されていません。
----- 三上さんは、ビッグバンドの経験が豊富ですが、本作はコンボの演奏です。ビッグバンド・ピアニストとコンボ・ピアニストはどのように違いがありますか。
ビッグバンドではトロンボーン、トランペット、サックスの3セクション(計13人)の楽器がハーモニーを作るようにアレンジされます。エリントンの実際の演奏を採譜した楽譜を見ると、彼はほとんどピアノを弾かずに、要所要所に印象的なフレーズを弾いている事に気づきます。これはベイシーの場合も同じです。しかしソロやトリオでの演奏では彼らの卓越な技術が判ります。たくさん弾けるところを、あえて抑えているわけです。そこがコンボでのピアノの役割との違いです。余談ですが、これはトリオでの歌の伴奏の際にも必要な観点です。
----- ハンプトンから学んだことで「ジャズはエンタテインメントである」とライナーに書かれています。ビ・バップ以降、現代のジャズはエンタテインメントの要素が少なくなっていると思いますがどのように感じていますか。
無我夢中でがむしゃらに演奏する人達が多いですね。大きな音量での演奏=迫力のある演奏という勘違いがあります。曲の選択にも気を配る必要があります、オリジナル曲ばかりでは一人の作風はどうしても単一な曲調になりがちなので、聴く方が飽きてしまいます。ハンプやガレスピーなどはお客さんを徹底的に喜ばせる演奏をしましたね。
----- 現在もニューヨーク在住だそうですが、演奏活動の状況をお聞かせください。
多くのミュージシャンの住むニューヨークではライブだけで生活していくのは大変です。私は芸術家用の公営住宅に住んでいるおかげで家賃は収入の1/3を払えばよいので助かっています。ギャラの高い楽団に顔をつないで置く事が必要です。私は現在キャブ・キャロウエー楽団のピアノを務めていますし、ブロードウエーの歌手3人で結成しているグループの音楽監督も務めています。
----- 日本では、ビッグバンドのコンサートやCDの発売が増えていますが、常設のビッグバンドとなると数は限られています。米国の状況はどのようですか。
常にコンサートの仕事があるのはベイシー、エリントン、キャロウェー楽団で、それ以外のビッグバンドの活動状況は各地でのスイング・ダンスでの演奏などに限られていますね、なにしろ経費が高すぎます、ホテルでも飛行機でも16人分ですから。
----- 今後の抱負をお聞かせください。
NYでの演奏の他に、年に2回各5−6週間位の全国ツアーを日本で行っています。ジャズは「生演奏」で聴いていただきたい、という気持ちが私には強くあります。日本の若手ベースとドラムと私の3人でワゴン車に楽器を積んで各地、とりわけライブに縁のない地域の皆さんに音楽を届けています。すばらしいピアノのある蔵やギャラリーなど、音響も良い会場が日本には沢山存在することを発見しました。将来はアメリカから演奏仲間を連れて来たいですね。
ツアーのブログは www.kunimikami.com に載せてあります。
(2011.9)