− 2005年神戸ジャズヴォーカルクィーンコンテストでグランプリを受賞されたわけですが、コンテストの内容を紹介してください。入賞を目指してどのような準備をされましたか。
●この『神戸ジャズヴォーカルクィーンコンテスト』は、阪神大震災後の街の復興をJazzで行おうと、2000年から始まりました。全国から応募があり、実力を備えた女性ヴォーカリスト16名が、2日間ある本選に出場し、ステージ上で華やかに腕を競い合うという内容です。
グランプリ受賞者は、神戸市と姉妹都市であるシアトルのライブハウス「Jazz Alley」の出演権を獲得します。その他の賞も神戸の老舗ライブハウスなどの出演権を手に入れることができるので、それらを目標に頑張っているヴォーカリストも多いと思います。
入賞を目指した準備ということですが、実は私はこのコンテストには2回出場しているんですね。初回は2003年第4回で、その時「審査員特別賞」を頂きましたから、2005年に2度目の本選出場となると、もっと上位の賞を頂かないとカッコ悪い・・・と。
なので、勝敗を意識して選曲していました!(笑)
ところが、勝敗を意識しているにもかかわらず、実際はコンテストの当日に控え室や廊下で、本選で歌う2曲を繰り返し練習するような状態で・・・。しかも途中から飽きてしまい・・・(汗)。すると脳みそが勝手に「シアトルに行ったら、何を歌おうかな?」と、楽しいことを考え出すわけです。
まだ本番前、歌ってもいないのに・・・、私って不謹慎だなぁって・・・。(笑)
− グランプリの副賞でシアトルのライブハウス「Jazz Alley」出演したそうですが米国のジャズを生で体験していかがでしたか。
●「Jazz Alley」に出演し、米国のジャズを生で体験させてもらえたことは、本当に貴重な体験となりました。
シアトルには短期間の滞在でしたが、「Jazz Alley」の前日も、地元のミュージシャンらが参加する「Jazz Picnick」に、私も参加させてもらったんですね。
その時共演したミュージシャン、またステージ上の他のグループの演奏を聴いたのですが、どのグループも穏やかな優しさに溢れていて、豊かな気持ちにさせてくれました。
その中でも、黒人男性シンガーが歌った『You've Changed』が心に染みて染みて・・・。
「私も日本に戻ったら、すぐにこの作品を歌いたい!」と、それ以降じっくり歌い続け、今回収録もしたわけです。
ライブハウス「Jazz Alley」では、ありがたいことに、満席のお客様の前で歌を披露させて頂けるチャンスに恵まれました。
でも、ピアニストのラリー・フラーが素晴らし過ぎました!(笑)
リハーサルの段階で、イントロの完成度、そのテンションの高さに圧倒され、さらに日本の歌「上を向いて歩こう」の最中、感極まり泣きそうになりました。
なんとか自分を奮い立たせ、リハーサルを終えましたが、その直後、わき目もふらず控え室に直行。「どうしよう・・・」真っ白になっていました。(笑)
でも、真っ白になっているヒマはなく「私は何をしにここに来たの?」冷静に自問自答をすると、“愉しむため”という言葉が浮かび、「そうだ!私はシアトルのミュージシャンと同じステージ上で、思いっきりジャズを愉しむためにここに来たんだ!」
その後、ステージに上がった私は、水を得た魚のごとく歌い泳いでおりました。(笑)
余談ですが、神戸コンテストのグランプリ受賞後は、何かと緊張状態が続き、正直、シアトルに行ける喜びというのは、ほとんどありませんでした。
シアトルに旅立つ当日、関空に向かう列車の中では席に座る気持ちにもなれず、通路の窓から景色を眺め、「Jazz Alley」で歌う曲を頭の中で歌っていたのですが、突然涙が溢れてきたんです。
それは、張り詰めていた緊張の糸が、ふっと切れたような感じと、何か安堵感のようなもの、また、わざわざ海外にまで行って歌わせてもらえるチャンスを頂けたという感謝の気持ちが混ざり合い、涙となってなかなか止まりませんでした。
− この度のCDは大変すばらしい内容ですが、選曲はどのように行ったのですか。
●すばらしい・・・と言われると、本当に恐縮です。でも嬉しいですね。(笑)
選曲は、私が愛してやまない作品をピックアップしました。でもレコーディング前夜、突如プレッシャーが現れ、迷ったり、落ち込んだり・・・一人でジタバタしました。(笑)
結局、運命を共にしてくれる、縁のある作品達が残ってくれたようですが、1)日頃、歌い馴染んでいるもの、2)新しいアレンジを聴いてもらいたいもの、3)これから広く知ってもらいたいもの、4)今後2年くらいかけてじっくり歌いこみたいもの、5)レコーディング直前にはまっていたもの、以上のように分析されます。(笑)”This Is New”はライナーにも書いていますが、全く知らない作品でしたが、あの怪しさにはまってはまって・・・。どんな風に録音しようか、ワクワクでした。(笑)
− 共演のミュージシャンもギターの畑ひろしをはじめ好サポートですが、どのようにして決めたのですか。
●畑ひろしさんをはじめ、共演ミュージシャンは、ずっと探していました。
そして、お一人ずつ、私から直接依頼させていただきました。
畑さんの評判は以前から聞いていて、ライブを聴かせていただいた後、ようやく共演の日程が決まり、後日同じステージに立ってみるわけです。
すると、その素晴らしさに感激して、絶対に畑さんとレコーディングする!と、即決していました。(笑)
宮下博行さんは、コンテスト後のNHK神戸放送局に出演した際のご縁ですが、素敵な旋律を弾かれるピアニストで、その後も何度も共演を重ね、またアルバムも聴かせていただき、その素晴らしさに感動、宮下さんと同じスタジオで録音しようと決め、ピアノも宮下さんに敬意を評し、お願いしました。
藤井学さんとは、このレコーディングが初共演でしたが、ライブハウスやコンサートホールでの演奏を聴き、またCDも聴かせていただき、お話もさせていただきました。
お人柄もよくって「この人で間違いない!」と、ドラムは藤井さんに決定です。(笑)
さて、ここまで決まったけれど、ベースはどうしよう?と思ったんですね。
全員がレコーディングで“初顔合わせ”となるので、ベーシストはみんなの接着剤となりえるような方にお願いしようと。荒玉哲郎さんとは、共演はなかったのですが、演奏は数回聴かせていただきましたし、畑、宮下両氏とも演奏経験があったので、「荒玉さん以外に考えられない!」という感じで依頼したわけです。
この4人に依頼が完了して、レコーディングスタジオの日程も確定した時、これは楽しい作品ができないわけがない!と、ワクワクしていました。(笑)
− アレンジはどのようにしましたか。
●アレンジは、基本的な構造は全て私が決めましたが、細かい部分はミュージシャンサイドにお任せするというスタイルを、今回は選択しました。
レコーディングに入る前日、全曲のアレンジの打ち合わせを行い、各プレイヤーの細かい音の調整や、リズムなど決定しましたが、それ以外はのびのびと愉しみながら、演奏してもらいました。(実際はコード楽器が二つなので、細かく考えて演奏してもらったかもしれません・・・)
もともと、素晴らしい個性と実力を備えたミュージシャン達なので、このスタイルが功を奏すると考えました。風通しのよい、味わい深いサウンドに仕上がったと思いますが、いかがでしょう?
− サラ・ヴォーンの歌に衝撃を受けてジャズ・ボーカルに目覚めたそうですが、サラの魅力は何ですか。その他にあなたが影響を受けたミュージシャンや目標としているミュージシャンは誰ですか。
●サラ・ヴォーンには、本当にドッガーン!と衝撃を受けました。
その魅力はなんと言っても、天真爛漫な歌いっぷり。大胆で力強く、天衣無縫とも思える無邪気なフレージング、尚且つピッチもリズムも完璧。けれど泥臭さが残り、洗練もされている・・・。私にとっては、あり得ないヴォーカルです。
サラを聴く前後、アレサ・フランクリンなど他ジャンルの黒人シンガーも多数聴いていたのですが、結局ジャズヴォーカルという点において、自由度が高かったサラに、一番魅力を感じたのかもしれません。
その他に影響を受けたミュージシャン(ヴォーカル)はもちろん数多くあります。
エラ・フィッツジェラルド、カーメン・マクレェ、ビリー・ホリディ、ロレツ・アレクサンドリア、ダイナ・ショア、ジュリー・ロンドン、キャロル・スローン、アン・バートン、ダイアン・リーブス、ダイアナ・クラール、カサンドラ・ウィルソン・・・ごめんなさい、きりがないです。(笑)
男性では、ナット・キング・コール、ジョニー・ハートマン、メル・トーメ、バリー・マニロウ、ダニー・ハザウェイ・・・こちらも・・・きりなしという感じで、ごめんなさい。
また現役のピアニストですが、バリー・ハリスには、何度も感動しています。
“弘法筆を選ばず”というのは、こういうことなんだなと。彼はどのピアノを弾いてもでも、彼自身の音を出すことが出来るし、また彼が弾き語りする作品は、すべて名作に聴こえるのです。・・・バリー・ハリスみたいになりたい!目標です!(笑)
− あなたは歌でどのようなことを聴衆に伝えたいのですか。このアルバムでの聞き所は何ですか。
●そうですねぇ、歌で聴衆に伝えたいというよりも、まず「私も歌いたい!」って、思って欲しいです。そして「あなたも歌えるよ!」ということ。
「私も歌いたい!」という気持ちは、ポジティブで素敵なエネルギーだと思いませんか?一人でも多くの人に、そういうエネルギーを持ってもらいたいのです。
アルバムの聞き所は・・・たくさんあって!(笑)
今回のファーストアルバムは、タイプの違う作品群、様々な形態での演奏、新しいアレンジなどを提案させていただきましたから、聴いてくださる皆さんが、随所に
聞き所を見つけ出してくださったなら幸いです。
また各ミュージシャンの素晴らしいプレイや、ヴォーカルの艶のある声・・・。(笑)
また、全体の“流れ”も聞き所と言えるでしょうか?
曲順や曲間の秒数など、何度も変更を繰り返した後、この状態に落ち着きました。
− このアルバムではスタンダードを中心とした本格的なジャズ・ボーカルですが、ポップスや日本の曲など他ジャンルの音楽をどう思いますか。”七つの子”を英語詩で歌っているのはなぜですか。
●本格的なジャズ・ボーカルと言っていただけると、またしても恐縮ですし、嬉しくもなりますね。(笑)
私が心を動かされるのは、やはりジャズスタンダードや、そのアプローチですが、もっとヴォーカルの可能性を広げていきたいと思っているので、ポップスや日本の作品に限らず、心が動かされた作品であれば、どんどんジャズ的なアプローチで、歌っていきたいと思っています。
また、カーペンターズ、S・ワンダー、B・ジョエルなどの作品は、ポピュラーヴォーカルの王道として、私もよく歌いますし、マンハッタントランスファーやTAKE6は、ヴォーカルの可能性やエンターティメント性を感じさせる、大好きなグループで勉強になります。
またミニリー・パートン、ロバータ・フラックの歌声には、共感する部分がたくさんありますし、マーク・マーフィーの自由奔放さも学びたい、マイケル・フランクスの
都会的に洗練されたサウンドも学びたい。
ボサノバでは、ガルコスタの力強さや、ジョイスのナチュラルなサウンドからもたくさん学びたい・・・挙げだしたら、きりがありませんね。(笑)
”Seven Little Babies(七つの子)”は、グレッグ・アーウィン氏の英語詞と歌声に、新鮮な感動を覚えました。彼の想いも伝わったのだと思いますが、屋外ライブで
早速歌ったのです。すると「か〜ら〜す〜なぜなくの〜」お客さん達が、一緒に歌ってくださったんですよ。・・・感動的でした! 改めて日本の童謡には癒しの力と、
日本の素晴らしさ、アイデンティティなどを思い出させる力があると実感しました。
そしてぜひ収録しようと、ワクワクでした!
− あなたにとってジャズとはどのようなものですか。ジャズ・ボーカルとポップスのボーカルとの違いは何ですか。
●う〜ん、難しい質問ですね。私にとってジャズとは、スィング感やタイム感を感じさせるものであり、音の選び方、フレーズの選択、そしてエモーショナルでリアリティのある表現であり、しかも進化し続けるもの、それがジャズでしょうか?
また別の言い方をするならば、「私にとってジャズとは、一生かけて追求する価値ある奥深いもの」となりますかね?(笑)
ジャズ・ヴォーカルとポップス・ヴォーカルの違いは、上で申し上げた通りの表現が、できるかどうかだと思いますが、例えばスィング感とタイム感を持って、表現できるか?とか諸々。また一言で言うならば、「引き出しの多さ」でしょうか?
現場の経験から言えることは、ジャズ・ヴォーカルのほうがポップスに比べて、より「引き出しの多さ」を要求されることが多いように思います。
− ジャズ・シンガーと呼ばれることをどう思いますか。
●光栄です!めちゃくちゃ嬉しいですよ。(笑)
なぜならば、音楽的な経験の豊さを感じさせ、しかも人生経験も豊富でないと、ジャズ・シンガーとは言ってもらえないように思います。(笑)
− 今後どのような音楽を目指していますか。また、活動の計画を教えてください。
●どのような音楽を目指すということですが、まずは「私も歌いたいっ!」と思っていただける音楽ですね。またヴォーカルの可能性を追求したいので、アカペラでの録音や、海外ミュージシャンとのレコーディングにも挑戦したい。とにかく、ワクワクする音楽を目指します!
活動の計画は、ファーストアルバム“Sing Swing Lips”をひっさげ、全国行脚です。「私の街にも来てほしい」というご要望があれば、お伺いしますので、お知らくださると幸いです。バンドで行かれれば最高ですが(笑)、私単独の場合もあるかと思います。また、ホールでのコンサートなども将来計画していきたいと思っています。
最後になりますが、もっと多くの方に、Jazzを聴いて、感じて、喜んでいただき、一人でも多くの方と、繋がっていかれたなら、と思っています。いつも応援してくださっているみなさん、そしてこれからまた出会うあなたに、心から“ありがとう”です!これからもどうぞよろしくお願いします!
(2008.9.25)